"冬ごもり"の日々に届いてほしいことば第三弾。(FB用に途中省略して改編。)
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美しいもの
美しいもの それは通り過ぎる風
少女の頬の生ぶ毛をなでて
むせかえる初夏の森をあおる風
いれたての花茶の匂いを盗んで
思いつめるひとをふりむかせる風
けっして立ち止まることのない余白
美しいもの
それは生まれたての赤ん坊のあくび
いたいけなはじまりは すべての物語
おそるおそる近づける指の先が
光のおすそ分けにほんのり染まる
語り出す前の一途ないのちの色は
まだ誰にも名づけられたことがない
美しいもの それは月星のめぐり
惑いとあらそいを引きうける地球の
恐れにも悲しみにも乱されない律動
生まれては生きて
死んでいくわたしたちの
からだをうたわせることわり
たった今ここで
このむき出しの世界に
ほめ言葉を探し出せる 心のちから
©️Wakako KAKU
「はじまりはひとつのことば」(港の人刊/2016)